東京地方裁判所八王子支部 昭和61年(ワ)2286号 判決 1988年1月26日
原告 株式会社ナックチェーン本部
右代表者代表取締役 西山由之
右訴訟代理人弁護士 金住則行
同 加藤朔郎
被告 三浦兵二
右訴訟代理人弁護士 小島啓達
同 佐竹俊之
主文
一 被告は、昭和六一年三月一八日から昭和六三年三月一七日までの間、宮城県、岩手県、福島県及び山形県において、デザインフラワーリース事業及びデザインフラワーの販売等デザインフラワーリース事業に類似しあるいは競合する業種の営業をしてはならない。
二 被告は原告に対し昭和六一年三月一日から昭和六二年一二月二一日までの間、一か月当り金六万七一六六円及び右各金員に対し各翌月二一日から各支払ずみまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
三 被告は原告に対し金七万〇四三三円及びこれに対する昭和六一年三月一八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
四 被告は原告に対し、原告が貸与した花器四一〇個を引渡せ。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は被告の負担とする。
七 この判決は第二ないし第四項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し金一六八万二四一七円及びこれに対する昭和六一年三月一八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告に対し、原告が貸与した花器五七五個を引渡せ。
3 被告は訴変更の申立書送達の日から二年間、宮城県、岩手県、福島県及び山形県において、名称の如何を問わずデザインフラワーリース事業及びデザインフラワーの販売等デザインフラワーリース事業に類似しあるいは競合する業種の営業をしてはならない。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第1、2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は造花(デザインフラワー)を企業や家庭に賃貸することを主たる業務とし、右事業のフランチャイズチェーン本部として加盟者に対する指導及びデザインフラワー、花器等の供給を行っている株式会社であり、被告は原告と昭和五八年一〇月三日次項記載の契約を締結し、宮城県石巻市においてフラワーリース業をしていた者である。
2 原・被告間の契約(以下本件契約という。)は加盟店本契約書、加盟店業務規程契約書、花器リース契約書、VTRソフト契約書に基づき、要旨次のとおりである。
(一) 原告は被告に対し、フラワーリース業を営む上で必要とされるノウハウ及び商品、資器材、原材料等を供与、貸与もしくは斡旋し、被告は宮城県石巻市においてフラワーリース業を行う。
(二) デデインフラワーは被告が原告から買い取る。
(三) 被告は原告に対し、契約締結に際し契約金一〇〇万円、加盟保証金五〇万円を支払う。契約金は返還されず、加盟保証金は無利息とし、毎年二〇パーセントづつ償却する。
(四) 被告は原告に対し、被告の月間売上高の五パーセント相当額のロイヤリティ及び三パーセント相当額のデザインフィーを翌月二〇日までに支払う。
(五) 被告は本契約の終了もしくは解約後二年間は同一都道府県及び隣接都道府県において、直接的、間接的、を問わず原告の事業に類似する業種あるいは競合する業種に従事してはならない。
(六) 被告が本契約の諸条項に違反した場合には、原告は被告に対し損害賠償の請求ができる。
(七) 花器は原告が被告に対し賃料一か月一個につき一円、支払時期翌月二〇日までと定めて貸与する。
(八) 契約解除の際は被告は原告に対し、貸与された花器を返還する。
3 本件契約締結後、被告は右約定に従い営業を継続してきたが、原・被告は昭和六一年三月一七日本件契約を合意解約した。右解約時の貸与花器の個数は五七五個であり、未払商品代金は金三二万〇四三三円である。
4 ところが被告は解約後も第2項(五)の約定に違反して宮城県石巻市においてデザインフラワーリース業を継続し、デザインフラワー販売業も行っている。
《以下事実省略》
理由
一 請求原因第1項、同第2項記載の事実及び同第3項中未払商品代金の存在及び金額を除く部分は、当事者間に争いがない。また被告が昭和六一年三月一七日の本件契約の合意解約後も宮城県石巻市においてデザインフラワーリース業を継続し、かつデザインフラワー販売業をしていることも当事者間に争いがない。
二 そこで、被告が現在石巻市において営業しているデザインフラワーリース業及び販売業が請求原因第2項(五)の約定に違反するものであるか否かにつき検討する。
《証拠省略》によれば、加盟店本契約書二―二に、「加盟店が営むNACチェーンのサービス事業とは……営業用並びに家庭用商品の製造、販売、賃貸その他のサービスを行う事業であり」との定めがあり、《証拠省略》によれば、原告と加盟店とを総体として見たNACチェーンの主たる事業内容は、原告が加盟店に対し一定期間毎に造花を供給(販売)し、加盟店がそれを企業や個人の顧客に貸与し、加盟店は原告に対し自己の営業成績に応じたロイヤリティ等を毎月支払うというものであることが認められる。そうすると、加盟店本契約一四―三の「加盟店は、本契約の終了もしくは解約後二ケ年間は、同一都道府県及び隣接都道府県において直接的、間接的を問わずNACチェーンの事業に類似する業種あるいは競合する業種に従事してはならない。」との約定の中の、「NACチェーンの事業」とは、前記本契約二―二の「加盟店が営むNACチェーンのサービス事業」も含むものと解するのが相当であり、NACチェーン本部である原告自身の事業に限ると解すべきではない。
そこで被告の事業内容を検討すると、造花の賃貸がNACチェーンの事業と同一であることは明らかである。造花の販売は、造花を供給して対価を得るという点で賃貸と類似性がある。
被告は、利益衝突を来たさない限り競合とは言えず、加盟店本契約一四―三に該当しないと主張し、原告の客が飲食店などの特定の客、被告の客が不特定多数の一般市民であるから競合しないと主張するが、原告と被告の客が被告の主張どおりであると認めるに足りる証拠はないうえ、飲食店などの特定の客と一般市民との間は截然と区別しうるものではないことは明らかである。また、被告は造花の販売先について、原告は加盟店に、被告は一般市民に販売しているから競合しないと主張するが、被告の事業と比較対象すべきなのは、原告と加盟店とを含むNACチェーンの総体としての事業であるから、右のような主張は失当である。よって、利益衝突がないから競合しないという被告の主張は採用できない。
以上のとおり被告の造花の賃貸及び販売は、加盟店本契約一四―三に違反すると認められる。従って、被告は右約定に基づき解約後二年間は造花の賃貸、販売をしてはならないものである。原告は、右二年間の始期につき訴変更申立書送達の日からと主張しているが、禁止期間二年の起算点は、解約の翌日であると解されるから、解約後二年を超える期間についての原告の請求は理由がない。
また、被告は右約定に違反したことによって原告の被った損害を賠償する義務がある。
三 原告の損害
1 《証拠省略》によれば、被告が解約後もデザインフラワーリース業及び販売業をしていることにより、原告は石巻市周辺において新規の加盟店契約ができず、加盟店契約をすることにより得べかりし利益を得ることができないことが認められる。
2 右の得べかりし利益の算出方法につき検討する。
まず、解約後の被告のデザインフラワーリース業の売上高を計算の基礎にする考え方については、妥当性がないというべきである。けだし、被告の事業は原告の加盟店としての事業ではなく、被告の独自の方法による事業であるから、加盟店契約に基づき行われる事業の売上とは基本的に相異すると考えられるからである。
次に、解約前の直近三か月間の平均売上高を計算の基礎とするのも妥当でないと考えられる。被告は加盟店本契約七―四―イ、ロを根拠とする旨主張するが、右約定は、加盟店が営業実績を原告に報告しない場合に、原告が直近三か月間の営業実績を報告しない期間の売上実績と推定してロイヤリティ等の額を算出して請求するという旨を定めたものであることは文言上明らかであり、《証拠省略》によれば、後に実際の営業実績が判明した場合には、その時点で清算がなされることが認められるから、右の約定は、あくまで暫定的、一時的な取扱いにすぎないものだからである。従って、原告の逸失利益算出の根拠として、右の約定は意味を有するものとはいえない。
結局、解約前一年間の売上高の平均値を根拠とする考え方に合理性があるというべきである。けだし、一年間の期間をとることは、季節による売上高の変動や、解約前の被告の事業意欲の減退(《証拠省略》により、このことを認めることができる。)などの特殊事情による影響が比較的少いと考えられるからである。
3 《証拠省略》によれば、解約前一年間、被告が原告に支払ったロイヤリティ等は別紙一覧表(一)のとおりであると認められる。従って、原告の得べかりし利益は一か月当り金六万七一六六円とするのが相当である。
そして、原告は、もし新規に加盟店契約をしていれば、昭和六一年三月から本件口頭弁論終結時である昭和六二年一二月二一日までの間、一か月当り金六万七一六六円のロイヤリティ等の支払を得ていたことになり、右金員の支払時期は売上のあった月の毎翌月二〇日であるから、被告は昭和六一年三月一日から昭和六二年一二月二一日までの間、一か月当り金六万七一六六円及び右各月分につき各翌月二一日以降支払ずみまで商事法定利率年六分の遅延損害金の支払義務がある。原告は昭和六一年三月以降二か年分を請求しているが、被告が今後、事業を継続するか否かが不明であるから、本件口頭弁論終結後の損害は請求しえないというべきである。また、遅延損害金については、原告は二か年分の損害について昭和六一年三月一八日から請求しているが、前示認定の遅延損害金を超える請求については理由がない。
四 未払商品代金と加盟保証金による相殺
《証拠省略》によれば、解約時の被告の未払商品代金は金三二万〇四三三円と認められ、被告が本件契約締結時、加盟保証金として原告に金五〇万円を支払ったこと、加盟保証金が毎年二〇パーセントづつ償却される旨合意したことは当事者間に争いがなく、原告は被告に対し本訴状によって償却部分を控除した金二五万円の加盟保証金の返還請求権を受働債権として未払商品代金と対当額で相殺したから、未払商品代金の残金は金七万〇四三三円と認められる。
五 花器の返還について
解約時に原告が被告に貸与していた花器が五七五個であったことは当事者間に争いがない。そこで抗弁につき検討する。
原・被告の合意内容である花器リース契約書によれば、A―五に、契約を解除した場合には加盟店は花器を返還する旨、A―六、A―八に、紛失、破損、自然消滅、老朽化して使用に耐えなくなった花器についてリース料の支払はしなくてよい旨の約定が存在する。また、《証拠省略》によれば、花器の貸与に際し加盟店は原告に対しほぼ花器の売買代金に相当する額を支払った上で原告から花器のリースを受け、毎月一個につき一円のリース料を支払っていたこと、相当の対価を支払っているにも拘らず花器の所有権が原告に留保されているのは、加盟店が他へ売却処分するのを防止するためであることが認められる。そうすると、他への売却処分以外の滅失、毀損の場合は、加盟店には、返還義務も価額賠償の義務もないものと解するのが相当である。そして、《証拠省略》によれば、被告は原告から貸与された花器五七五個のうち一六五個を紛失したと認められるから、一六五個については返還義務はないものというべきであり、従って、原告の花器返還請求は、現存する四一〇個に限り理由がある。
六 結論
以上によれば、原告の本訴請求中、1、被告のデザインフラワーリース業及び販売業の営業禁止は、昭和六三年三月一七日までの期間については理由があるから認容し、それを超える期間は理由がないから棄却し、2、損害賠償請求については、昭和六一年三月一日から昭和六二年一二月二一日までの間一か月当り金六万七一六六円及び右各金員に対し各翌月二一日から各支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払の限度で理由があるから認定し、その余の部分は棄却し、3、未払商品代金七万〇四三三円及び遅延損害金の請求は理由があるから認容し、4、花器返還請求については四一〇個につき理由があるから認容し、その余の部分は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲葉耶季)
<以下省略>